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ゴルフは一説によると、15世紀のスコットランドで羊飼い達が木の棒で石ころを打って遊んでいたのが始まりとされています。ゴルフの発祥にはこの他にもさまざまな説がありますが、いずれにしても最初の頃のゴルフスイングはプレーヤーが好きなように木の棒を振り回すというものだったようです。しかし、その遊びは19世紀の中頃に打数の少なさを競う競技として発達し、多くのプロゴルファーが大舞台でしのぎを削るようになりました。そして、そのプロゴルファー達のプレーは多くの人々を魅了し、彼らのように上手にゴルフをプレーしたいと願う人が増えていきました。これに伴って多くのプロゴルファーがレッスン活動に従事し、指導論の研究及び指導書の出版が行われるようになりました。
このような中で写真技術の発達が、スイング中のクラブシャフトの位置を細かく映し出すことを可能にしたため、1930年代には学習者にクラブシャフトを一枚の平面に沿って動かすイメージを持たせて指導するという方法が開発されました。そして、この方法により生まれたのが、伝説的なベン・ホーガンのガラス板のイメージです。(図1)このイメージに基づくスイング指導では、クラブシャフトが正確に一枚の平面上を動くかどうかではなく、学習者自身にスイング中に「どのようにクラブを振るのか」という感覚が伝えられるため、連続写真やビデオ映像に写し出された瞬間的なフォームを矯正する指導法に比べ、スピード感をそこなわせることなくゴルフスイングという運動を指導することができたのです。
しかし、ゴルフスイングは、ボールやクラブの開発とともに変化しました。1960年代に登場したジャック・ニクラスは、トップオブスイングの右肘の高さを指摘され、偉大なプレーヤーになるには「右肘を低い位置に収まるように改良する必要がある」と酷評をあびせられました。しかし近年では、トップオブスイングで右肘を体から離さないプロゴルフファーはほとんどいなくなりました。実はニクラスが行ったアップライトな軌道のスイングは、ニクラス以前にバイロン・ネルソンによってリストターンを行わないように開発されたスイングだったのです。そしてニクラス以降現在まで、このアップライトなスイングがゴルフ界で主流を占めているということなのです。その理由は、クラブシャフトの開発によりリストターンを使ったスイングがフックボールを生み出す危険性が高くなったことにあります。
しかし、このリストターンを使わないアップライトスイングを指導するためには従来の一面のスイングプレーンのイメージやその応用ではやりにくくなり、新しいスイングイメージが必要になったのです。このような状況で日本プロゴルフ協会のA級ティーチングプロ安藤 秀と筑波大学スポーツ運動学研究室の朝岡正雄教授によって開発されたのが「コンバインドプレーン(Combined-Plane)」のイメージです。(図2)
このスイングイメージに基づくスイングの構築では、動画1のように体の回転で作るインパクトエリアのスイングプレーン(インパクトプレーン)に、動画2のように腕の動きで作る垂直のプレーン(縦プレーン)を組み合わせて、テークバック及びダウンスイングのスイングプレーン(図2のA)、インパクトエリアのスイングプレーン(図2のB)、フォロースルーのスイングプレーン(図2のC)という3つのスイングプレーンをつくります。 |
そして、それらを組み合わせることでコンバインドプレーンを完成させアップライトな軌道のスイングを構築します。(動画3) |
このコンバインドプレーンのイメージによって、一面プレーンのスイングに比べイメージさせにくかったアップライトスイングのトップオブスイングやフォロースルーの位置をわかりやすく伝えることができるようになりました。
このスイングプレーン構築方法では、「縦プレーン」を作る腕の動きにはクラブフェースを返す動きはさせません。腕はクラブシャフトを高い位置から垂直に振り下ろすだけで、これによってクラブヘッドの重みが最大限に利用されます。そして、「インパクトプレーン」を作る体の回転は、縦プレーンから高速で落下してくるクラブフェースをボールの位置まで移動させながらクラブフェースをターンさせます。この体の回転によるクラブフェースのターン(ボディターン)は、前腕部のリストターンと異なり急激なクラブフェースの返しは行わないため、アップライトスイングは強烈なインパクトでボールを叩いてもフックボールが発生しないのです。
この縦方向に動かす腕の動きと横方向に回転するターン動作を組み合わせる練習法が、縦プレーン構築練習です。(動画4)
そして、インパクトプレーンと縦プレーンの組み合わせ方には、多くのゴルファー達がかかえる2つの大きな悩みを解決する糸口が隠されています。
まず、一つ目はドライバーショットとそれ以外のショットの打ち分けです。ゴルフを始めた頃は誰でもティーアップされたボールもしくは地面にあるボールのどちらかを打つのが苦手だったはずです。また、ある程度コースでプレーできるようになっても、日によってティーショットが調子の良い日はセカンドショット以降の調子が悪いということやその逆の現象がしばしば起こるものです。実はこの好不調の波は、それぞれのプレーンを作る動きの速度によって決まるヘッドスピードの関係によって発生するのです。トップオブスイングから縦プレーン上に振り降ろされるクラブヘッドのスピードに対して、インパクトプレーン上を移動するクラブヘッドのスピードが遅いとクラブヘッドはボールより手前に落下してしまいダフリショットを発生させ、逆に、縦プレーン上を落下してくるクラブヘッドのスピードに対して、インパクトプレーン上を移動するクラブヘッドのスピードが速いとクラブヘッドは地面に接触できずにボールの位置を通過してしまうためトップボールを発生させてしまいます。つまり、地面にあるボールをナイスショットするということは、トップオブスイングから縦プレーン上を落下してくるクラブヘッドのスピードとインパクトプレーン上でクラブヘッドがボール方向に移動するスピードが調節され、ちょうど地面に接触するような速度関係でスイングすることが必要になるのです。これに対して、ドライバーによるショットではボールは高くティーアップされています。このため、このボールをナイスショットするためには、地面にあるボールを打つ場合にトップボールを発生させてしまうような速度関係でスイングしなければならないことになります。そして、縦プレーン上を落下するクラブヘッドのスピードは腕と手首の使い方により決まり、インパクトプレーン上でクラブヘッドがボールの位置まで移動するスピードは体の回転速度によって決まります。このように考えるとコースでプレーするときには、ドライバーによるティーショットと地面から直接ボールを打つセカンドショット以降では、スイングフォームは同じでも体の回転の速度を調節することが求められ、これができないとドライバーショットとそれ以外のショットのどちらかが調子が悪いというラウンドになってしまいます。
続いて、二つ目は飛距離アップについてです。ゴルフファーならだれでも他を圧倒するロングドライブにあこがれるものです。飛距離を伸ばすにはインパクト時のヘッドスピードを上げればよいというのは周知の事実です。しかし、ヘッドスピードの差とはどのような動きの違いによって発生し、どうすればヘッドスピードは上がるのかという問いに対しての明確な答えはなかなか得られないようです。そのため、多くのプレーヤーは筋力トレーニングを行うにしてもどのような筋肉を鍛えることが飛距離アップにつながるのかが解らずに全体的な筋肉アップをはかっています。しかし、ナイスショットを生み出すことが、コンバインドプレーンを構築する際の縦プレーンを落下するクラブヘッドのスピードとインパクトプレーン上を移動するクラブヘッドのスピードの関係を調整することと考えれば、飛距離を伸ばすためには双方のスピードを上げればよいことになります。そのような観点から飛距離アップをとらえれば、縦プレーン上を落下するクラブヘッドのスピードを上げるには縦方向に速くクラブシャフトを振り下ろすことができるグリップの形、肘の向き、トップオブスイングの位置、腕の使い方などが追い求められ、インパクトプレーン上を移動するクラブヘッドのスピードを上げるには、下半身の使い方、体幹部の捻り方、そのための準備であるアドレスの姿勢が導き出されます。つまり、このような動きの速度を上げるという観点からスイングの仕方を調整し、その動きに必要な筋力のトレーニングを行えば飛距離は伸びるでしょう。